大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

長野地方裁判所 昭和46年(ワ)191号 判決

長野県飯田市飯田一、三一六番地

原告人

飯田繊維株式会社

右代表者代表取締役

小沢峰男

原告訴訟代理人弁護士

富森啓児

東京都千代田区霞ケ関一丁目一番一号

被告人

右代表者法務大臣

瀬戸山三男

被告訴訟代理人弁護士

土屋一英

被告指定代理人

長沢幸男

太田陽也

村上基次

吉田宗弘

川俣一郎

丸山豊一

大塚俊男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、申立

一、請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金五〇〇万円とこれに対する昭和四六年一〇月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

1  主文同旨

2  担保を条件とする仮執行免脱の宣言

第二、主張

一、請求原因

1  原告は、昭和三二年二月一八日に設立された衣料品の卸売、販売を目的とする株式会社である。

2  長野県飯田税務署長(以下、署長という。)は、別紙記載のとおり、昭和三五年四月一二日付をもって、原告の青色申告に基づく正当な確定申告を無視して青色申告の承認を取消すとともに更正、決定を行ない、別紙記載のとおりの各税額を原告から徴収した(以下、本件処分という。)。本件処分と争訟の経緯については別紙記載のとおりである。

3  ところで、署長は本件処分の前である昭和三二年、有限会社飯田衣料(原告の前身。以下、同じ。)の事業と、有限会社飯田衣料の代表者である小沢峰男が個人で経営する二七会市場、四九会市場、貸金業、有価証券売買業等を故意に混同又は同一視し、小沢峰男が証拠資料を提出しても全く聞きいれようとせず、右有限会社について法人税等の更正をした。これに対して小沢峰男は異議を申立てた。さらに関東信越国税局所属の大蔵事務官内田稔は昭和三三年一一月二六日「渡辺正一」なる架空名義の普通預金口座が八十二銀行飯田駅前支店にあることを発見し、小沢峰男その他有限会社の関係者の説明を何ら聞かずに、これを有限会社飯田衣料の簿外預金と断定し、右簿外預金から派生したものと認めた小沢峰男名義の定期預金債権を差押えた。これに対して小沢峰男は抗議し、損害賠償請求の訴を提起した(当裁判所昭和四四年(ワ)第五九号事件)。しかるに署長は小沢峰男の異議申立や抗議に対する報復措置として、原告に対しても、小沢峰男が個人で二七会市場、四九会市場、貸金業、有価証券売買業等を経営していることを認めようとせず、「渡辺正一」ほかの架空名義の普通預金を原告の簿外預金と断定するなど原告の事業と小沢峰男個人の営業を故意に混同又は同一視して本件処分をした。そして署長は当裁判所昭和三九年(行ウ)第一〇号法人税更正決定取消請求事件の訴訟係属中である昭和四三年一二月二七日、別紙記載のとおり、法人税につき課税標準等及び税額等が過大であったことを理由に減額の再更正を、源泉徴収所得税につき賞与が支払われていなかったことを理由に徴収決定の取消を、それぞれ行ない、一旦徴収した税額とこれに対する還付加算金とを原告に返還した。

4  以上のとおり、本件処分は原告に対する報復的意図のもとに署長によって故意になされた公権力の行使による違法な行為であって、被告はこれによって原告が被った損害を賠償する責任がある。

5  原告が被った損害は、次のとおりである。

(一) 署長が本件不法行為により徴収した金員を原告が年一割の複利計算で運用したとして、得べかりし利益から「還付加算金を付加して原告に還付された金額」を控除した残額合計金一四七万二、〇九九円

内訳 法人税関係 一一六万八、五〇一円

県民税関係 二四万一、七一三円

市民税関係 六万一、八八五円

(二) 青色申告の違法な取消により欠損金繰越、貸倒準備金繰入、価格変動準備金繰入、接待交際費認定限度額その他経費認定限度額等の特典を否認されたために昭和三五年四月以降合計二九万二、七一〇円の過分の支払いを余儀なくされた。これを原告が年一割の複利で運用したとして計算すると、昭和四六年八月三一日までに金七三万二、九七五円〈省略〉。

〈省略〉法行為によって業務の妨害を受けないで順調に営業を続けていたとすれば、昭和三六年ころには店〈省略〉はずであるから、原告は建築費の値上りにより金五〇〇万円の損害を被った。

〈省略〉害は七二〇万五、〇七四円であるが、原告は内金五〇〇万円と、これに対する昭和四六年一〇月一日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実のうち、原告の確定申告が正当であること、署長が原告の確定申告を無視したことは否認し、その余の事実は認める。

3  同3の事実のうち、原告の前身が有限会社飯田衣料であること、署長が本件処分の前である昭和三一年、有限会社飯田衣料について法人税等の更正をしたこと、関東信越国税局所属の大蔵事務官内田稔が昭和三三年一一月二六日「渡辺正一」なる架空名義の普通預金口座が八十二銀行飯田駅前支店にあることを発見し、これを有限会社飯田衣料の簿外預金と断定し、右簿外預金から派生したものと認めた小沢峰男名義の定期預金債権を差押えたこと、これに対して小沢峰男が損害賠償請求の訴を提起した(当裁判所昭和四四年(ワ)第五九号事件)こと、署長が昭和三五年四月一二日、「渡辺正一」ほかの架空名義の普通預金を原告の簿外預金と断定するなどして本件処分をしたこと、署長が当裁判所昭和三九年(行ウ)第一〇号法人税更正決定取消請求事件の訴訟係属中である昭和四三年一二月二七日、別紙記載のとおり、法人税につき課税標準等及び税額等が過大であったことを理由に減額の再更正を、源泉徴収所得税につき賞与が支払われていなかったことを理由に徴収決定の取消を、それぞれ行ない、一旦徴収した税額とこれに対する還付加算金とを原告に返還したことは認める。小沢峰男が個人で二七会市場、四九会市場、貸金業、有価証券売買業等を経営していることは知らない。その余の事実は否認する。

(青色申告の承認取消と更正について)

(一) 本件処分を行なうに際して、署長はその所属職員をして原告について調査させたところ、次のような点が発見されたので、公表帳簿が真実の取引をあらわしているとは認められないとして原告について青色申告の承認を取消した。

(1) 架空名義の普通預金と原告の公表帳簿との関係

原告は八十二銀行飯田駅前支店に「渡辺正一」なる架空名義の普通預金口座を設け、右架空名義を順次早川勝已、今井啓介、米山幸の各名義に変更した。右架空名義の普通預金と原告の公表帳簿とを照合すると、原告の当座預金勘定口座から払出された金額がその払出された日付と同じ日付で架空名義の普通預金口座に預入れされているもの、反対に架空名義の普通預金口座から払出された金額がその払出された日付けと同じ日付けで原告の当座預金勘定口座に振込まれたと認められるものが相当回数にのぼり、また架空名義預金口座に原告の別途売上げと認められる入金もみられた。

これらのことから架空名義の普通預金は原告の公表当座預金と密接な関連があり、原告の事業資金として一体となって運用されているものと推認された。

(2) 記帳の信憑性

原告の帳簿は一応記帳されており、関係伝票等も保存されていたが、その記帳内容を検討すると、金銭出納帳にはインク消しで抹消、訂正された箇所が散見され、しかも当初の数字が判明しないので訂正原因が判明せず、また計算上の誤りも多い。その他売買差益率、営業利益率、棚卸回転率が一般に比べ著しく低い。

これらのことから原告の帳簿の信憑性に疑いがもたれた。

(3) 借入金の偽装

原告の公表帳簿によると、第一事業年度において、高橋吾一から金一〇〇万円、前野幸太郎、前野実三、小沢豊、小沢千秋から各金五〇万円を借入れ、第二事業年度に返済されたように記帳されているが、これら借入金は「渡辺正一」名義の普通預金から払出されて入金したもの、または有限会社飯田衣料の受取るべき宣伝費補助金を借入金の形式で入金したものであることが判明した。仮にこれらの借入金が架空のものでないとしても、貸主たる債権者の名義は偽装されており、しかも「渡辺正一」名義の普通預金が原告の簿外預金であると認められるところから所得隠蔽の手段としてこのような操作をしたものと認めた。

(4) 株式払込

原告の設立時における資本の額金二〇〇万円に相当する株式の払込は、八十二銀行飯田駅前支店になされているが、その払込金のうち、渡辺源一、林新一、小沢豊、小沢峰男、小沢睦子、林久の同族関係者分及び塚田清恵の分合計金一〇五万円は、同支店の「渡辺正一」名義の普通預金口座から払出された金一〇五万円が当てられたものと認められた。

(二) そして署長は、前記(一)の(1)ないし(4)の各点に加えて、当時原告の実質的代表者であった小沢峰男をはじめ原告関係者から調査の協力を得ることができなかったため、やむを得ず原告の簿外預金であると認められる「渡辺正一」名義等四口の普通預金の預入額を基本として売上高を算出確定し、これに原告と同種の事業を営む法人の営業利益率を乗じて営業利益を算出する方法によって所得金額を推計せざるを得なかった。

(徴収決定について)

昭和三三年一二月ころ、原告の簿外預金と認められる「渡辺正一」等の架空名義の普通預金が払戻された事実があるが、払戻された金員の使途が不明であった。一方そのころ小沢峰男が個人で土地家屋を取得していた。従って右払戻された金員は小沢峰男の土地家屋の取得費用に当てられたものと推定された。そこで署長は原告の第二事業年度の認定所得金一三一万二、七〇八円のうちから社外流出分金一一六万八、〇二八円を原告の実質的代表者である小沢峰男に対する臨時的な給与(賞与)であると認定して、これについての源泉徴収所得税額を算定し、徴収決定したものである。

4  同4、5は争う。

三、抗弁

原告は、昭和三五年五月二日の再調査請求時又は昭和三九年九月一四日の訴提起時において、本件処分の違法性を認識していたから、そのころ損害及び加害者を知ったものということができる。従って原告の損害賠償請求権は、昭和三八年五月二日の経過又は昭和四二年九月一四日の経過により時効により消滅しているものといえる。よって右消滅時効を援用する。

四、抗弁に対する認否

原告が、昭和三五年五月二日の再調査請求時又は昭和三九年九月一四日の訴提起時において、本件処分の違法性を認識していたことは認める。しかしながら、訴訟において行政処分の効力が争われている間は、原告がいかに処分の違法性を認識し、これを主張しているとしても、原告が損害及び加害者を知ったものとして扱うべきではない。

第三、証拠

一、原告

1  甲第一ないし第一二号証、第一三号証の一ないし一三、第一四ないし第三〇号証、第三一号証の一、二、第三二号証の一ないし三、第三三号証の一、二、第三四号証

2  証人内田稔、中島芳治、原告代表者

3  乙第一号証の一ないし一一、第九号証の一ないし五、第一〇、一四、一五号証、第一九ないし第二一号証、第二二号証の一ないし三、第二三号証の一の成立は認める。第二号証の一ないし三、第三号証の一ないし三、第四、五号証、第七号証の一ないし一〇、第八号証の一ないし一五、第二三号証の二の原本の存在とその成立は認める。第二四号証の二は郵便官署の作成部分の成立は認め、その余の部分の成立は知らない。その余の乙号各証の成立は知らない。

二、被告

1  乙第一号証の一ないし一一、第二号証の一ないし三、第三号証の一ないし三、第四、五号証、第六号証の一ないし一七、第七号証の一ないし一〇、第八号証の一ないし一五、第九号証の一ないし五、第一〇号証、第一一号証の一ないし三、第一二ないし第一六号証、第一七号証の一ないし三、第一八ないし第二一号証、第二二号証の一ないし三、第二三号証の一、二、第二四号証の一、二

2  証人神谷勇雄、佐藤英一、平沢逸男

3  甲第一ないし第七号証、第三一号証の一、二、第三三号証の一、二の成立は認め、その余の甲号各証の成立は知らない。

理由

一、本件処分の存在

署長が昭和三五年四月一二日「渡辺正一」ほかの架空名義預金を原告の簿外預金と断定するなどして本件処分をしたこと、しかるに署長が当裁判所昭和三九年(行ウ)第一〇号法人税更正決定取消請求事件の訴訟係属中である昭和四三年一二月二七日、別紙記載のとおり、法人税につき課税標準等及び税額等が過大であったことを理由に減額の再更正をし、源泉徴収所得税につき賞与が支払われていなかったことを理由に徴収決定の取消をそれぞれ行ない、一旦徴収した税額とこれに対する還付加算金とを原告に返還したことは当事者間に争いがない。

二、本件処分を担当した署長の故意過失

1  青色申告の承認取消と更正について

(一)  証人佐藤英一、同神谷勇雄の各証言、これらの証言により真正に成立したものと認められる乙第六号証の一ないし一七、第一一号証の一ないし三、第一二、一三号証、成立に争いのない乙第一号証の一ないし一一、第一〇号証、原本の存在とその成立に争いのない乙第二号証の一ないし三、第三号証の一ないし三、第四号証、第五号証の一ないし一〇、第七号証の一ないし一〇、第六号証の一ないし一五を総合すると、以下の事実を認めることができる。

(1) 八十二銀行飯田駅前支店に「渡辺正一」なる架空名義の普通預金口座(昭和三〇年二月一一日新規預入、昭和三三年二月一一日解約)が設けられ、右架空名義は順次早川勝已(昭和三三年二月一一日新規預入、昭和三三年五月二二日解約)、今井啓介(昭和三三年五月一四日新規預入、昭和三三年一〇月二八日解約)、米山幸(昭和三三年一〇月二五日新規預入、昭和三三年一二月二二日解約)の名義に順次変更されたこと。

(2) 原告の当座預金勘定口座から払出された金額と同一の金額がその払出された日付と同じ日付で右架空名義の普通預金口座に預入れされていたこと、反対に架空名義の普通預金口座から払出された金額と同一の金額が、その払出された日付と同じ日付で原告の当座預金勘定口座に振込まれていたこと、しかも右のいずれもが各事業年度を通じて相当回数にのぼっていたこと

(3) 各事業年度を通じて原告の同業者が振出した小切手の相当数が現金化されて、右架空名義の普通預金口座に入金されていたこと

(4) 原告の第一事業年度における金銭出納帳の一部にインク消し等によって抹消、訂正された箇所が散見され、しかもいずれの箇所についても当初に記載された数字が判明しないので訂正原因が不明であったこと

(5) 各事業年度を通じて、原告の利益率、棚卸回転率が同種会社に比して劣っていたこと

(6) 原告の借入金勘定元帳の第一事業年度分の記載のうち、五件の借入は仮装のものであったこと

(7) 原告会社が昭和三二年二月一八日設立(時期については当事者間に争いがない。)の際、資本の額の約二分の一に相当する金一〇五万円分についての株式の払込は、右「渡辺正一」の架空名義の普通預金口座から払出されたものが当られていたこと

(8) 署長は、本件処分を行なうに際してその所属職員をして原告の会計処理等について調査させたところ、右(1)ないし(7)の各事実を発見したこと

(9) さらに署長は、その所属職員をして当時原告の実質的代表者であった小沢峰男に面接して問題となる点につき調査させようとしたが、同人がこれに協力しなかったため、調査ができなかったこと

(10) そこで署長は、原告の公表帳簿が真実の取引を表わしているものとは認められないとして、原告の第一事業年度にさかのぼって青色申告の承認を取消したこと、さらに「渡辺正一」名義の普通預金を原告の簿外預金と断定し、その預入額のうち売上漏れとされる部分を基本として売上高を算出し、これに原告と同種の事業を営む飯田市内の三社の営業利益率を乗じて営業利益を算出する方法によって所得金額を推計したこと

以上のとおり認められ、右認定に反する原告代表者の供述部分は採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  ところで、署長は本件更正を行なうにあたって、小沢峰男が個人で二七会市場等の営業を行なっていたとの認識を持っていなかったというべきである。その理由は以下のとおりである。

(1) 証人平沢逸男の証言によると、有限会社飯田衣料に対する更正(昭和三二年一二月)を行なうに先立って、署長がその所属職員をして有限会社飯田衣料を調査せしめたところ

(イ) 二七会市場が有限会社飯田衣料によって経営されていること

(ロ) 二七会市場は有限会社飯田衣料の二階で開かれ、そこにおける営業の内容は同会社の事業内容とほぼ同一であること

(ハ) 二七会市場には独自の帳簿書類はないこと、但し市場が開催されるごとにメモを作るが、これも市場の終了とともに破棄していること

が明らかになり、これに加えて有限会社飯田衣料の帳簿書類の信憑性につき疑問が生じた結果、右更正がなされたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(2) なお右有限会社飯田衣料に対する更正に先立って同会社の代表者小沢峰男が飯田税務署員に対して資料を提出して、小沢峰男が個人として前示の二七会市場等の営業をしている旨説明をしたとか、同人が右更正に対して異議申立をしたとかの事実については、原告代表者が、これに沿う供述をしているけれども、証人平沢逸男の証言に照らして信用し難く、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

(3) さらに関東信越国税局所属の大蔵事務官内田稔が昭和三三年一一月二六日、小沢峰男名義の定期預金債権を差押えたことは当事者間に争いがないけれども、証人内田稔の証言によれば、右差押は、右大蔵事務官が飯田税務署員の立場で税金の滞納会社である有限会社飯田衣料に対する滞納処分として行なったものであり、右大蔵事務官は、当時小沢峰男が個人で営業を行なっているとの認識を持っていなかったことが認められる。

(4) そして右差押に対して、小沢峰男が抗議を行なったとの事実についても、原告代表者の供述中には、これに沿う部分もあるものの、ただちに信用し難く、他に右事実を認めるに足りる証拠もない。

(5) また証人神谷勇雄、同佐藤英一の各証言によると、本件処分に先立って飯田税務署職員も小沢峰男につき調査したが、結局同人が個人として営業を行なっていたとの資料を得ることができなかったことが認められる。

(6) なお、小沢峰男が前記(4)の差押に対して損害賠償請求の訴を提起した時期は、本件更正後であることは証人内田稔の証言によっても明らかである。

(三)  以上の本件更正に関する経緯に鑑みれば、本件更正当時、署長が前記架空名義預金を原告の簿外預金と断定したことはもっともであり、公表帳簿に信憑性もなく、かつ、当時原告の実質的代表者であった小沢峰男の協力も得られなかったのであるから、原告の第一事業年度にさかのぼって青色申告の承認を取消し、各事業年度につき原告の所得を推計によって算出したことはやむを得なかったものであり、またその方法も相当であったということができる。

2  徴収決定について

証人神谷勇雄の証言により真正に成立したものと認められる乙第六号証の三、成立に争いのない乙第一号証の二、証人佐藤英一の証言によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  第一事業年度始めに前記架空名義の普通預金口座から払出された金一五〇万円が、そのころ定期預金として銀行に預入れられ、右定期預金が第二事業年度末に解約されたこと

(二)  右定期預金が解約されたころ、小沢峰男の妻が右解約して払戻した金額に相当する価格で土地建物を購入したこと

(三)  署長は本件決定を行なうに先立って、その所属職員をして原告について調査させたところ、右(一)、(二)の各事実を発見したこと

(四)  さらに署長は、その所属職員をして、当時原告の実質的代表者であった小沢峰男に面会して右各点について調査させようとしたが、同人がこれに協力しなかったため、調査ができなかったこと

(五)  そこで署長は、右架空名義の普通預金口座から払い出された金員が、右土地建物の取得費用にあてられたものと推定して、別紙記載のとおり原告の第二事業年度における原告の実質的代表者である小沢峰男に対する臨時的給与(賞与)と認定したこと

以上のとおり認められ、右認定に反する原告代表者の供述は採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

署長が本件決定をなすにつき、小沢峰男が個人で二七会市場等の営業を行なっていたとの認識を持っていなかったことは、本件更正についてすでに1の(二)で述べたと同様である。

以上、本件決定に関する経緯に照らせば、本件決定当時、署長が臨時の給与(賞与)を認定したことは、やむを得なかったものということができる。

3  そうだとすれば、本件処分を担当した署長に故意、過失があったとすることはできない。

三、よって、署長には本件処分をなすに当って故意又は過失があったとの立証がないから、原告の本訴請求は、その余の点につき判断をするまでもなく失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川名秀雄 裁判官 山下和明 裁判官 川島利夫)

(第一事業年度-昭和三二年二月一八日から同三三年一月三一日までの事業年度-の法人税について)

(第二事業年度-昭和三三年二月一日から同三四年一月三一日までの事業年度-の法人税について)

(源泉徴収所得税の徴収決定について)

(法人税の青色申告承認の取消処分について)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例